交通事故は内科的な疾患を発症させるか

民事訴訟

交通事故にあった時、負傷するするのは普通のことです。負傷のため後遺障害が残ったり、時には死亡したりします。しかし、今回は、交通事故が、内科的な疾患である脳や心臓の疾患を惹起するのかということを考えます。脳疾患では、脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症であり、心臓疾患では、虚血性心疾患等  心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全、大動脈解離です。

 ちょっと考えると、交通事故は身体に打撃を与えるものであり、怪我をさせたり死亡させたりはするけれども、内科的な疾患は起こさないと考えるでしょう。しかし、交通事故が内科的な疾患を惹起することがあります。なぜならば、生体が異常な出来事に遭遇した場合に、当該過重負担が急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし、血管病変等を急激に著しく増悪させ、脳・心臓疾患の発症の原因となると考えられるからです〔「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(R3/7)」〕。確かに、全く健康状態のときには、交通事故の被害にあったからといって、脳出血や脳梗塞、そして心筋梗塞、狭心症などの脳や心臓の疾患を惹起することは考えにくいです。しかし、交通事故の被害者が、動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤、心筋変性等の抱えている場合(基礎病態といいます。)には、話は別です。交通事故による急激な血圧変動や血管収縮により、脳内出血(脳出血)、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの疾患を起こす現実の可能性が出てきます。

 この点は、労働災害補償保険による、脳・心臓疾患の労災認定基準が参考になりますす。この認定基準では、「基本的な考え方」として、「脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変等が、主に加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活による諸要因や遺伝等の個人に内在する要因により形成され、それが徐々に進行・増悪して、あるとき突然に発症するものです。しかし、仕事が特に過重であったために血管病変等が著しく増悪し、その結果、脳・心臓疾患が発症することがあります。このような場合には、仕事がその発症に当たって、相対的に有力な原因となったものとして、労災補償の対象となります。」と明記しています(厚生労働省 「脳・心臓疾患の労災認定 過労死等の労災補償Ⅰ」とのパンフレット参照)。ここでは、「仕事がその発症に当たって」とありますが、「交通事故がその発症に当たって」と読み替えることができます。

 ただ、脳内出血(脳出血)、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの疾患の発症の基礎となる動脈硬化、動脈瘤などの血管病変の状態が、重篤な状態であり、日常生活を営む上で受ける僅かな負荷(例えば、入浴や排便等)によっても発症しうるものであった場合には、交通事故にあった際に、またま脳内出血(脳出血)、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症等を発症したとしても、交通事故は機会原因として自然的経過によるものとされ、交通事故によって発症したとはいえないとされています。

 ちなみに、交通事故によって脳内出血(脳出血)、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの疾患の発症したと判断されるときには、被害者は加害者に対して、これら疾病による損害額も請求できます(実際には自動車保険が適用される)。その交通事故が、働いている時の通勤の途中に発生したのであれば、いわゆる通勤災害として労災保険の補償も請求することになります。

名古屋弁護士 伊神喜弘

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