原子力発電所の運転期間の規制法規

原子力発電所の運転期間の規制法規 原発問題

前々回のブログで「原子力発電所の運転期間延長と使用済み核燃料の審査」について書きました。このブログをアップした2023年5月24日当時は国会で「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」は審議中でしたが、その後、同年5月31日に参議院本会議で可決成立してしまいました。残念ですが、今回のブログでは原子力発電所の運転期間の根拠法令をおさらいし、同法律が不当であることの理解の一助とします。

 原子力発電所にある原子炉は発電用原子炉といいます。通俗的に原子力発電所の運転期間といいますが、正確には発電用原子炉の運転期間のことです。1つの原子力発電所に複数の発電用原子炉があるときには、それぞれの発電用原子炉の運転期間も違ってきます。

 関係法令は、電気事業法と核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、炉規法といいます。)です。

 発電用原子炉は、電気事業法では事業用電気工作物と定義されており、その31条は、事業用電気工作物の設置者は経済産業省令で定める技術基準に適合することを求められています。

 炉規法では、「第4章 原子炉の設置、運転に関する規制」において、原子炉設置者が従うべき規制を定めています。

 もともと、電気事業法も炉規法も発電用原子炉の運転期間の定めを設けていませんでした。しかし、2011年(平成23年)3月の東日本大震災に伴って発生した福島第一原子力発電所の事故を受けて、二度と同じ惨禍を起こすまいとの国民の難い決意により、以下のとおりの2012年(平成24年)6月24日法律47号によって炉規法43条の3の32が定められました。

(原子力規制委員会の運転期間に関する規制に関する旧法)

炉規法43条の3の32 発電用原子炉設置者がその設置した発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉の設置の工事について最初に第43条の3の11第1項の検査に合格した日から起算して40年とする。

2 前項の期間は、その満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けて。1回に限り延長することができる。

3 前項の規定により延長する期間は、20年を超えない期間であって政令で定める期間を超えることができない。

4 第2項の認可を受けようとする発電用原子炉設置者は、原子力規制委員会で定めるところにより、原子力規制委員会に認可の申請をしなければならない。

5 原子力規制委員会は、前項の認可の申請に係る発電用原子炉が、長期間の運転に伴い生ずる原子炉その他の設備の劣化の状況を踏まえ、その第2項の規定により延長しようとする期間において安全性を確保するための基準として原子力規制委員会で定める基準に適合していると認めるときに限り、前項の認可をすることができる。

 この立法の趣旨は、発電用原子炉の運転に関する安全性に関する権限を、原子力規制委員会の権限としたところにあります。2012年(平成24年)6月24日法律47号により立法された原子力規制員会設置法第1条はその立法目的を以下のとおり定めています。運転期間の規制権限を原子力規制委員会から奪ったのは、発電用原子炉の運転期間の安全性審査について原子力規制委員会の権限をうばったことを意味しています(これから生じる発電用原子炉の安全審査に対する不安は、次のブログで説明します。)。

 この法律は、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故を契機に明らかとなった原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)に関する政策にかかる縦割り行政の弊害を除去し、並びに一の行政組織が原子力利用の推進と規制の両方の機能を担うことにより生じる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善且つ最大の努力をしなければならないという認識に立って、確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し,又は実施するための事務(原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関すること並びに国際約束に基づく保障措置の実施のための規制その他の原子力の平和利用の確保のための規制に関することを含む。)を一元的につかさどるとともに、委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保障、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする。

 ところが、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」は、前記のとおりの炉規法43条の3の32を削除しました。そして、以下のとおりの電気事業法に第27条の29の2を新設し、発電用原子炉の運転期間の規制の権限を経済産業大臣の権限としました。ところで電気事業法1条は「この法律は、電気事業の運営を適正且つ合理的ならしめることによって、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。」と立法目的を定めており、発電用原子炉の安全性の確保は立法目的としておらず、電気事業の運営の適正且つ合理的な実現を目的としています。発電用原子炉の運転期間に対する捉え方が、大きく転換しています。「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善且つ最大の努力をしなければならないという認識」(前記引用の原子力規制委員会設置法1条)は欠落しています。

(経済産業大臣の発電用原子炉の運転期間の規制に関する新法の条文)

電気事業法27条の29の2 原子力発電事業者が、その発電用事業の用に供するため、発電用原子炉を運転することができる期間は、当該発電用原子炉について最初に第49条第1項の検査に合格した日から起算して40年とする。

2 原子力発電業者は、その発電事業の用に供するため、前項の40年を超えて発電用原子炉を運転しようとする時は、あらかじめ、経済産業大臣の認可を受けて、運転期間を延長することができる。

3 前項の認可を受けようとする原子力発電業者は、次に掲げる事項を記載した申請書を経済産業大臣に提出しなければならない。

一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名

二  運転期間を延長しようとする発電用原子炉を設置する営業所の名称及び所在地

三 延長しようとする運転期間(20年を超える場合にあっては、申請にかかる発電用原子炉(事項において「申請発電用原子炉という。)の運転を停止した期間(同項第5項イからホまでに掲げる期間に該当するものに限る。)及びその理由を含む。)

四 その他経済産業省令で定める事項

4 経済産業大臣は、第2項の認可の申請があった場合において、当該申請が次の各号のいずれにも該当していると認めるときにかぎり、同項の認可をすることができる。

一 申請発電用原子炉が平和目的以外に利用されるおそれがないこと

二 省略(必要に応じて引用する)

三 省略(〃)

四 省略(〃)

五 省略(〃)

5~8 省略(〃)

※ 本当はこれら省略箇所も全文記載すると、電気事業法に発電用原子炉の運転期間の規制権限が経済産業大臣に移管された意味が理解できるのですが、全文書くとすごく長くなりますので、カットしました。引き続いて書くブログで必要に応じて引用しながら説明していきます。

名古屋弁護士 伊神喜弘

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