原子力発電所の運転期間延長と使用済み核燃料の審査

原子力発電所の運転期間延長と使用済み核燃料の審査 原発問題

現在、政府は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」を国会に提案し審議されていますので、今回はこの問題を取り上げます。この法律の目的は原子力発電所の運転期間の延長(40年+20年=60年を60年以上にする)だといわれていますが、それ以外にも見逃すことができない悪質な狙いがあります。以下、説明します。

 現行法では、原子力等規制法で原子力発電所の運転期間は原則として40年と定めています(同法43条の3の32第1項)。但し、同法は、1回に限り、40年を超えて運転することができるとし、その延長期間は20年以内としています(同条第2項、3項)。運転期間の延長の認可の権限は原子力規制委員会が有しています(同条4項)。その理由は、原子力規制委員会が原子力利用における安全の確保を図ることを任務としているからです(原子力規制委員会設置法1条)。

 原子力等規制法43条の3の32第5項は、原子力規制委員会は、延長にかかる発電用原子炉が同委員会の定める設備の劣化に関する安全性を確保するための基準に適合していると認めるときに、延長について認可できると定めています。この運転期間の延長の認可にあたって、原子力規制委員会が発電用原子炉の劣化に関する安全性の審査をしなければならないことは当然ですが、それ以外にも運転期間の延長に伴って生じる使用済み核燃料の処理に関する審査もしなければならないのかが、重要な問題となってきました。同条項は劣化に関する基準の審査以外の安全事項の審査については明示していません。しかし、延長の認可の目的は安全審査であり、使用済み核燃料の処理も安全審査の重要な事項ですから、当然にこの点も審査した上、延長の認可をすべきものです。特に使用済み核燃料の処理をどうするのかが、極めて深刻な問題となっているからこの点の安全審査をすべきは当然です。
 
 使用済み燃料の危険性は2011年3月の福島第一原発事故で明らかとなりました。使用済み核燃料からは崩壊熱が出ており、これを除去するには燃料プールの冷却水が常時循環して冷却機能が維持されていることが不可欠で、この機能が失われると、崩壊熱により核燃料の被覆管が溶融し、水、コンクリート、空気と反応して燃焼乃至爆発し、放射性物質を広範囲にまき散らすこととなります。福島第一原発の3号機と4号機の使用済み核燃料が冷却材(=水)を失い過熱の危機に晒されているのではないかとの危惧のため、注入作業が必死で展開されました。米国政府のコンピュータ・シュミレーションの結果は福島原発から200㎞離れた東京でも非難が必要となるかもしれないことを示していたといわれています(「日本における使用済み燃料貯蔵の安全性とセキュリティ エドウイン・ライマン著」 岩波「科学」Vol185 №12 1195頁)。

 このように危険な使用済み核燃料については、その処理もできず、引取り手もいないため、それぞれの原子力発電所にそのまま保管されているのが現状です(その原因は①政府が取ってきた核燃料サイクルの破綻と、②高レベル放射性廃棄物の最終処理の目途が絶っていないことにありますが、これらの点は別の機会に説明します。)。2022年6月末時点で、15の原子力発電所のうち、6箇所の発電所では許容容量の80%を超えています(今田高俊外著 「核のごみをどうするか もう一つの原発問題」岩波ジュニア新書 61頁 図2-1)。

 このように、使用済み核燃料の処理をどうするのかが、極めて深刻な問題となっており、したがって、原子力規制委員会は運転期間の延長の認可にあたり、運転期間の延長に伴って生じる使用済み核燃料の処理に関する審査もしなければならないのです。私は、高浜原子力発電所1号機、2号機の40年を超える運転期間延長認可の取消訴訟の弁護団の一員として、運転期間延長反対の裁判をしています。その中で、40年を超えて運転することは、使用済み核燃料を処理の当てもなく増加させるとして、この点審査しなかった延長認可が許されない、取り消されるべきだと主張しています。

 ところが、今国会で審議されている「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」では、そもそも、発電用原子炉の運転期間とその延長の認可の権限を経済産業大臣としてしまい、原子力規制委員会の権限から運転延長の認可の権限を奪ってしまいました(改正電気事業法27条の29の2第1項~第8項)。加えて、原子力規制委員会の権限を、発電用原子炉施設の劣化の管理に限定し、30年を超えて発電用原子炉を運転しようとするときは、運転しようとする期間(10年以内に限る。)における発電用原子炉の劣化を管理するための計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けなければならない、とし(改正原子力等規制法43条の3の32第1項)、安全審査の範囲を限定しました。
 
 このように、運転期間の延長のさいの原子力規制委員会の安全審査の権限を制限し、使用済み核燃料の処理に関する審査の権限を有しないことを明確にしました。

名古屋弁護士 伊神喜弘

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