【40廃炉原発訴訟】
日本で原子力発電が開始されてからすでに、48年経ちました。
福井県にある高浜原子力発電所の発電用原子炉である高浜1号機、高浜2号機の運転開始は1974(S49)/11/14、美浜原子力発電所の発電用原子炉である美浜3号機の運転開始は1976(S51)/12/14で日本で最も古いものです。40年間稼働したうえ、さらに20年間の稼働を認めるというので(認めたのは原子力規制委員会ですが。)、この延長の違法性は極めて明らかだとして起こされているのが、40年廃炉訴訟です。私は、この訴訟の弁護団のメンバーです。
(使用済燃料の保管の増大とその長期化)
発電用原子炉で発電をすれば、使用済燃料が出ます。国の計画では、使用済燃料は、再処理工場に移されそこで再処理して、プルトニウムを取り出し(これは発電用原子炉でウランと同様、燃やすことができます。)、残った廃棄物は高レベル放射性廃棄物として最終処分(具体的には地下300メートル以上の深地層に埋設)することになっています。しかし、再処理工場はその竣工時期26回、30年近くも延長されており、稼働しておりません。
こうして、50年近い稼働をへて行き場のない使用済燃料が各原子力発電所に敷地内に保管されその量が増加してきました。2022年(令和4年)6月末時点で、15ヶ所ある原子力発電所のうち6ヶ所が貯蔵許容量の80%を超えるといわれています(今田高俊外 「核のごみをどうするか」岩波ジュニア新書 61頁)。
行き場なく増大する事態の対処策から、やむなく1999年(平成11年)に使用済燃料の中間貯蔵ができるよう法律改正をしましたが、使用済燃料の中間貯蔵も一向に進んでいません。
(使用済燃料の危険性)
使用済燃料とは一体どういうものでしょうか。
原子力発電所は、燃料棒に加工したウラン燃料(約3%のウラン235と約97%のウラン238の低濃縮ウラン燃料棒)に、原子核分裂を起こさせ。その過程で発生する熱エネルギーを電気エネルギーとして取り出すが、燃料棒の中では、ウラン235が原子核分裂を起こして、クリプトン85、キセノン135、ストロンチウム90。セシウム137、ヨウ素131等の核分裂生成物、すなわち「死の灰」と、ウラン238の一部がウラン239となり、更にこれが壊変したプルトニウム239と。燃え残りのウラン238が残ります。これが使用済燃料です。
使用済燃料は原子炉内での核分裂を終えてもなお、極めて高い放射能毒性を帯び、且つ長期間にわたり崩壊熱を発生し続けます。この崩壊熱を除去しないと、崩壊熱の発生源である燃料ペレットや燃料被覆管の温度が上昇を続け、溶融や損傷、崩壊が起こり危険の状態となります。
使用済燃料は使用済燃料が再処理工場で再処理された後に残る高レベル放射性廃棄物(正式には第一種特定放射性廃棄物といいます。)と勝るとも劣らない毒性を有するのです。
使用済燃料の危険性は、福島第一原発の惨事の際に浮き彫りになりました。3号機と4号機の使用済み燃料プールが冷却材(=水)を失いつつあって過熱しているのではないかとの危惧のため、失われた水を補給する試みが必死で展開されたのは皆さんの記憶に残っているはずです。米国政府はコンピューター・シミュレーションを実施して、両方のプールの使用済み燃料が発火した場合どうなるかを検討しました。シミュレーションの結果は米国の環境保護庁(EPA)が設定した基準に従えば原発から約200km離れた東京でも避難が必要となるかもしれないということを示していました。
高浜1号機、2号機、美浜3号機の稼働を認める人々にとっても、使用済燃料の原子力発電所で保管の増大、長期化は大きな不安の種です。
関西電力は、2020年(令和2年)には中間貯蔵施設の計画地点を確定する使用済燃料対策方針を打ち出していました。2017年(平成29年)に福井県知事は、大飯原発3、4号の稼働同意にあたり、使用済燃料の中間貯蔵施設の県外立地を求めました。関西電力は、2021年(令和3年)に、高浜1号機、2号機、美浜3号機の再稼働について、2023年(令和5年)末までに中間貯蔵施設の計画地を確定する、それができないときは運転しないと約束したりしたのです。
2023年(令和5年)年末の期限はもうすぐです。中間貯施設の計画地は確定していません。そうであるのに、関西電力は、原子力発電所内の一部の使用済燃料をフランスに移転するといって(それならそれだけ原子力発電所内に保管されている使用済燃料が減るからいいではないかという理屈です。)、約束を反故にしようとしています。
(運転期間延長を認める理屈とその不当さ)
皆が不安に思っているのに、原子力規制委員会は、40年間すでに運転した、高浜1号機、2号機、美浜3号機について、更に20年間運転することを認めました。
政府は口を開けば、福島原発事故後、世界最高水準の安全規制を実現するためにできた原子力規制委員会といいます。原子力規制委員会が、運転期間延長を認めるさいに、なにゆえに、増大且つ長期化する使用済燃料に関する安全審査をしないのか、を問われると、原子力発電の安全規制については、分野別、段階別安全規制をしているからだといいます。
分野別、段階別安全規制とは、政府の説明によると、原子炉規制法に原子炉の運転、中間貯蔵、再処理、廃棄に関する規制の定めがあって、それぞれの分野毎にしっかり安全規制をしているというのです。 しかし、中間貯蔵も再処理も原子力発電が開始されて約50年間、機能してこなかったことが明らかとなっています。高レベル放射性廃棄物の最終処理の見通しもありません(この点はまた別の機会に説明します。)。行き場のない使用済燃料のみが原子力発電所の敷地内にとめどもなく増大してきました。分野別、段階別安全規制は安全規制体系として機能していません。
分野別、段階別安全規制論によれば、どんなに使用済燃料の危険性が存在したとしても、発電用原子炉の運転を認めることができるというわけです。しかし、そんな理屈を認めるわけにはいきません。40年廃炉訴訟の弁護団は発電用原子炉の運転許可処分乃至運転期間延長認可処分の審査の際、使用済燃料に関する安全審査をすべきであり、それがなされない処分は取り消されなければならないと頑張っています。
名古屋弁護士 伊神喜弘
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