わが国では精神障害者の精神科病院への入院期間が極めて長期化しており、人権問題として解決しなければならない大きな課題となっています。比較すると癌患者及びその家族の絶望は大きいですが、それに勝るとも劣らないものとして精神障害者及びその家族は蒙っている極めて困難な境遇があり、人権問題となっています。
愛知県弁護士会は精神保健相談員の名簿をつくり、精神科病院に入院中の患者から要請を受けて、精神科病院内の処遇について相談に応じ、相談に続いて退院請求の代理人となる事業に取り組んでいます。私も精神保健相談員の1人です。
2019/04~2020/3の1年間で、愛知県弁護士会が受けた精神保健相談は130件でした。相談者を入院期間ごとに区分けすると、入院1月以下が50人(20%)、1月より長期~3年未満が37人(28.5%)、3年以上が17人(13%)、入院期間不明26人(20%、これは以下の分析からは除外されます。)でした。
精神科以外の病気や疾病で入院するときはそのほとんどが患者の自由意思によっています。しかし、精神科病院の場合は、自由意思による入院(任意入院といいます。)は少なく、ほとんどは患者の意思に反する強制入院です。そして、強制入院には、都道府県知事の命令によって入院する措置入院、親族等の同意をえて入院させる保護入院、医療観察法による裁判所の命令による入院の3つがあります。130件の精神保健相談では、措置入院は18人(13.8%)、保護入院は100人(77%)、医療観察法による入院が2人(1.5%)でした。任意入院は10人(8%)です。
注意すべきは親族等の同意をえて入院させる保護入院も強制入院であるということです。保護入院が圧倒的に多くなっています。ここに、精神障害者の入院がもつ問題点があります。
精神障害者の医療と福祉を所管する法律は、精神保健法および精神障害者福祉に関する法律ですが、精神科病院に強制入院させられている患者の人権保障の観点から、退院請求という制度が定められています。各都道府県(政令指定都市を含む)には精神医療保健審査会が設置され、患者からの退院請求に対し退院を認めるか否か判断することになっています。
私たち精神保健相談員は患者の要請を受けて、代理人として退院請求をします。
2019/04~2020/3の1年間の相談活動について特に退院請求の側面から見てみます。
(入院期間1月以下の相談事例)
入院期間1月以下の50人のうち、1週間以内の相談者は12件で、うち5件は退院が予定されており、そのうち退院請求したのは2件です。
1週間以上1月以下の38件のうち任意入院への切替が2件です。退院の可能性があるのが6件で、そのうち退院請求は1件です。
すなわち、入院後1月以内という短期間の間に、精神保健相談がされたケースでは、比較的多くの退院となっています。
(入院期間3年以上の相談事例)
入院が3年以上の17人について見ます。
10年以上の極めて長期入院の8件のうち、退院が想定されていないと思われる相談事例が5件です(ただし、2件は患者本人は退院を望んでいます。)。その余は3件については、2件は退院請求したが、退院は実現していません。患者は退院後1人の生活を希望していました(もっとも受け入れる親族もありませんでした。)。1件は患者から退院請求の依頼が弁護士になされたが請求に至らなかった事例です。
(入院期間1月より長期~3年未満の相談事例)
37人(28.5%)ですが、退院請求がなされた数は8件で、すべて退院請求は認められていません。
(まとめ)
入院期間1月以下の事例以外は、退院請求は機能していない実態がありました。
そして、長期入院の事例ではそもそも退院ということ事態が想定されていない実態があります。
さる2023年(令和5年)2月4日(土)に、愛知県弁護士会で、精神医療審査会に対する退院請求の活動について、全国の弁護士150人が集まって(ウェブ参加併用)、経験交流会が行われました。私はその経験交流会で、前述した愛知県弁護士会の精神保健相談活動について報告しました。また、私自身が取り扱った事例を報告しました。
私の取り扱った事例は、15年間ほど精神科病院に強制入院していた患者が、自分も40歳を超えたので退院したいというものでした。愛知県精神医療審査会は、強制入院である保護入院から任意入院にするよう命じました。しかし、既に両親も老齢となり引き受ける力がなくすぐには退院に至らず、数年後に地域移行制度を利用して退院となりました。
井の中の蛙、大海を知らずという諺があります。経験交流集会では、10グループ以上に分かれてケースメッソドによる討論をし、各グループ間の意見交換が行われました。全国の仲間の報告、意見を聞いていて、広い見方、新しい見方、勇気をいただきました。
名古屋弁護士 伊神喜弘
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